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サイトで掲載中「Fly Again」のサイドストーリーみたいな。
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「いっ・・・!」
「どうした!」

急に足を止めて座り込むリールに気が付き、シヴィルは少し後ろに戻った。

「大丈夫ですわ。少し足を切っただけ。先に行ってください」
「少しって、ざっくり切れてんじゃねーか!」

リールの右のふくらはぎは、落ちていた木の枝でかなり深く切れていた。これでは満足に走れないだろう。
シヴィルは傷口に手を当て、治癒魔法を唱える。

「シヴィル、先に行ってくださいって言って・・・」
「ばか!置いていけるか!」
「・・・っ」

ヴィスウィルの弟は、こんなに頼もしい男だっただろうか。いつも兄の陰に隠れて分からなかっただけだろうか。




「すみません・・・・」














瞬間、不本意に頬を赤らめている自分に驚愕した。

(え?今私、ドキってした?!いやいやいや、そんなはずは!)

何と言ったって自分はあのヴィスウィル=フィス=アスティルスの許嫁(だったはず)だ。最近はなんとなく麗に負けている気がして公言することもなくなってきたが、だからといって弟に恋心が移るはずがない。気のせいだ、気のせいだと言い聞かせながらリールは彼の背中を追った。






何年前のことだろうか。
シヴィルとの出逢いはもちろん、ヴィスウィル関係であった。初めて会ったヴィスウィルに負けず劣らず、生意気な眼をした少年だった。だが、心なしか兄よりはやわらかい表情だった気がする。まだ垢抜けない、いや、誰かにまだ震え上がるような修行を虐げられていないような、そんな気がした。対してそのときのヴィスウィルは冥界を見た後のような遠い目をしていたことは昨日のことのように鮮明に覚えている。
親の仕事の関係で会った二人であったが、ヴィスウィルにはその立ち居振る舞い、本当は優しい心をもった人物であることを知って一目惚れ、猛烈にアタックし続けたが受け止めてはくれなかった。他に気持ちを寄せる人もおらず、無視されたからといってくじけるようなリールでもなかった。

「お前、タフだなー」
「ほっといてくださいな!こいするおとめのこころはこどもには分からないんですのよ!」
「いや、オレお前と同い年だけど」
「せいしんねんれいのことを言っているんですの!全く、これだからこどもは!」

これがシヴィルとした最初の会話であった。とても思い出に残るような会話ではなかった。
そして、リールはこの時、あまりシヴィルのことが好きではなかった。

「でも、兄ちゃんは多分、他にすきなひとがいると思うぞ」
「・・・っ!わ、分かってますわよ!そんなこと言っていただけなくとも!」
「?だったらなんで」
「い、いいの!わたくしがヴィスウィルさまの心をこっちに振り向かせてみせるんだから!」
「お前、タフだなー」

幼い故にか、ダイレクトに恋する乙女の心をハンマーで殴りつける彼が、決して好きではなかった。
ヴィスウィルは外で修行中、親同士の話し合いがあるため二人は同じ部屋に押し込められている以上、無視することもできず、同じテーブルに座ってお茶を飲んでいるが、一刻も早くこの場から立ち去りたい。

「ほい、お茶」
「わ、わたくし、砂糖がないと飲めませんわ!」
「ん?いれたけど」
「え?」

別に飲めないことはない。ただ、やはり子どもには渋すぎる紅茶を甘くして飲むのがリールは好きだった。ヴィスウィルは甘いものは苦手なようで、ストレートで飲んでいたから、真似して飲んでみようとしたが、あまりおいしくなかった。

「前飲んでた時、砂糖入れてたからいるのかな、って思って。あ、甘すぎるならオレ飲むからこっちを・・・」
「い、いただきます!」
「そうか?」

会話はなかったものの、以前からシヴィルとは顔を合わせている。興味もなく、ヴィスウィルにばかり話しかけていたから自分の好みなんて知るはずもないと思っていた。
シヴィルの淹れてくれたお茶はおいしかった。きちんとした淹れ方で淹れているのだろう。当然のことながらもやはり人によって差が出るものだ。

「あ、あなたも砂糖をいれるの?」
「んにゃ?オレはあまり甘いの嫌いだから入れない派」
「え?だって入れてるじゃない。この前だって入れて・・・」
「んー?まあ気分だよ気分」

以前大人も混じったお茶会があった。
一人だけ砂糖を入れるリールが少し恥らっていたのを見たシヴィルが、オレも入れる、と砂糖を手に取った。
リールとしては子どもだ、と思われるのが嫌だったのだろう。子どもだと分かっていても、その場に一人だけお子様のようで恥ずかしかったのだ。
普段砂糖など使わないシヴィルが入れる、と言い出してヴィスウィルはシヴァナは不思議そうに見ていたが、何かを察したのか何も言わなかった。

この時リールはまだ知る由もなかった。

シヴィルの砂糖のような優しさを。














「はっ・・・はぁっ・・・はぁっ」
「大丈夫か、リール」

彼の弟とはいっても、リールとは基礎体力から違うシヴィルと同じペースで同じだけ走るのは無理があった。リールを気遣いながらシヴィルは時々立ち止まってくれる。
喋ることもままならず、首だけで大丈夫だと返答する。シヴィルはリールの息がある程度整うまでその場で止まっていた。これから進む道を見極めようと遠くを見ていた。

「怪我とかしてないな?」
「は、っはい・・・」

ようやく呼吸が落ち着き、二人は再び走り出した。
シヴィルはリールの怪我を心配していたが、そういえば先ほどから走りやすい。

ふと、前を行く彼を見た。


多分、気のせいだ。


でも彼は走りながらも木の枝や蔓を取り、人一人分くらい通れるスペースを空けていた。


多分、気のせいだ。


自分が傷だらけになりながらも、リールを気遣うほど彼は大きくはなかったはずだ。


多分、気のせいなんだ。








そんな彼の後ろ姿を見て胸が締め付けられたのは。








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